蜀漢降伏の巻

これは景耀6年(263)、魏の大将軍・鄧艾が一気に進軍し成都に迫ってきた時の話である


劉禅「南蛮に都を移し、力を蓄えた方がいいと思うが」 

譙周「古によりこのかた、他国に身を寄せながら天子であった者はいません」

劉禅「では、呉に出奔するか。同盟国であるし」

譙周「もし呉に入ったならば、当然臣下として服従しなければなりません」

劉禅「臣下か。それは先帝に申し訳ない。やはり南蛮に行った方がいいのかもしれない」

譙周「陛下は、南蛮に行く計画があると言われますが、臣は愚かであると思います」

劉禅「何故じゃ。南蛮には、孟獲や祝融夫人が、丞相(諸葛亮)に忠誠を誓った人物がいるではないか」

譙周「それは丞相が軍事的圧力をかけたので、追い詰められて服従してるだけです」

劉禅「何を言うか。彼らの忠節を疑うのか」

譙周「丞相の南征以後、彼らは税を差し出し、苦しみ恨んであります。彼らは国家に損害を与える連中でありますぞ」

劉禅「朕は、彼らを信じたいのじゃ」

譙周「それは勝者の希望的観測であります」

劉禅「何故、そう思う」

譙周「圧倒的力で、相手を殴っておいて、その者が付き従った時、陛下は、その者を信じますか」

劉禅「いや、それは力でねじ伏せただけであって、心服してない」

譙周「それが、現状の南蛮なのであります」

劉禅「そうなのか」

譙周「また、臣が反対するには、3つの理由があります」

劉禅「もうしてみよ」

譙周「第一の理由は、南蛮に身を寄せても、必ず孟達らは反逆します」

劉禅「何故じゃ。あれほど心服していたではないか」

譙周「先程も申したように、あれは軍事的圧力に屈しただけであります。本心は違うのです」劉禅「しかし、一緒に魏と戦った仲間ではないか」

譙周「陛下。曹操も先帝と反董卓として一緒に戦った仲間であります。目的が一緒なら仲間ですが、それが違ったら仲間でなくなるのです」

劉禅「確かに今では敵同士であるが。第二の理由を申してみよ」

譙周「第二の理由は、南蛮に逃げ込んでも、魏は我が軍の力を衰えた事につけ込んで追撃してきます」

劉禅「その時、孟獲達はどうすると思う」

譙周「魏と同じ動きをして、我ら攻めるでしょう」

劉禅「そうか。そんなものなのか。彼らの我が国家の思いは」

譙周「そうです。彼らは、自らの土地が守れればいいのです」

劉禅「...第三の理由を述べよ」

譙周「第三の理由は、南蛮に逃げ込んでも、その経費は膨大になります。諸蛮族は必ず反旗を翻すでしょう」

劉禅「第二の理由と同じく孟達に取って我らは、異物で迷惑は存在であるのだな」譙周「そのとおりであります」

劉禅「では、どのようにしたらいいか。そちは思うのだ」

譙周「魏に服従するのです」

劉禅「魏が受け入れなかったら、どうするのだ」

譙周「魏は、必ず受け入れます。現在、呉が服従していませんからです」

劉禅「何故、そう思うのだ」

譙周「ここで我が国を受け入れなければ、呉の反発が強まります。情勢からいって受け入れるわけにはいかないでしょう」

劉禅「受け入れたら、朕の身はどうなるのだ」

譙周「受けいれば、礼遇しないわけはいきません。そうすれば、魏は領土を分けて諸侯に封じるでしょう」

劉禅「本当に、そう思うのか」

譙周「魏が陛下を諸侯に封じなかった場合には、私が洛陽に参り、古代の建前を説いて頑張る所存であります」

劉禅「わかった。そちの言葉を信じるとしよう」

蜀は降伏した。譙周の言葉どおり劉禅は、安楽県公に封じられたという。領地は1万戸。

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